「赤坂 菊の井」(☆☆彡)
http://www.kikunoi.jp/
KikunoiAkasaka

 割烹と料亭の二つの顔を持つと言われる赤坂の和食店。
 京都の料亭が東京に作り出した異空間ともいえるそのエントランスからその料理にいたるまで素晴らしい。

 トップクラスの店としての重要な役割も感じ、考えさせてくれました。
 
住所:港区赤坂6-13-8
電話:03-3568-6055
定休:日曜
営業:17時~21時
 
 赤坂の一角。ビルの立ち並ぶ中に緑深い石畳の通廊のエントランスがありました。
 緩やかな階段になった道の両側には竹や木などの緑と足元を照らす照明。
 小さな木の看板を掲げた竹の門を通り抜け、道を歩くと、ここが都心であることを忘れます。

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 突き当りで右に曲がり、小さく祭られた場所を見ながら建物の入り口へ。ここはよく上を見ると、ビルの合間を抜ける場所。裏口の方みたいに見えますが、よくぞこのエントランスを作れたものです。
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 入り口はシンプルに。なるほど、京らしい和のわびた風情があります。
 中に顔を出すと出迎えの仲居さんが待たれていました。名前を告げて落ち着いた雰囲気の1階を右に見ながら、奥左側の階段を上がり2階へ。ちらりとみえた1階はカウンター席や小上がりのようなオープンな半個室などのようです。

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 2階は靴を脱いで上がります。

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 畳敷きの廊下からふすまをあけていただき個室である和室へ。
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 黒塗りの長い机で、足元は掘りごたつのように座ることができる構造。本当にコタツのように足元が隠れるよう布が張られています。塗りのいすにフカフカの座布団。娘のためには座布団は小さいものと二重にしてくださっていました。

 

08年11月5日の来訪。

 17時の予約で。両親とともに伺いました。
 
懐石 21000円
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 コースは一番高いものをお願いしてあります。
 
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 最初は金色の面の杯に日本酒を。鉄瓶のようなよい急須から仲居さんが注いでくれます。
 これが爽やかな口当たりで美味しい。日本酒の飲めない自分がそう思い、かつ飲めるほどしかありません。ネットで調べると菖蒲酒のようです。口がすっきりと食事の体制に入るとともに、これはいいかも♪と気持ちもリセットされます。
 
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 飲み物は冷たいお茶を希望したところ京番茶をいただきました。
 薄いガラスのコップは一流店で使うそれ。
 冷たく美味しい。なくなるとすぐに持ってきてくださいます。
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 途中からは温かいものに変えていただきました。
 
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 先付は白子です。生姜の利いた和風出汁に。とろりとした濃厚な白子にさっぱりした汁で美味しい。和食の店としての力量をしっかり感じさせてくれました。
 
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 とても美しい八寸。重ね合わせて盛り付けるところがまた良い。上に飾られているのは真っ赤なもみじ下には黄色のイチョウとオレンジ色の柿の葉。それと蕎麦と海苔で作られた食べられる松葉も。
 柚子の器に盛られているのはあんきも、茹でたシメジ、水菜です。
 手前にはフォアグラの松風。フォアグラに松の実とレーズンを使い、表面にはけしの実。
 その上にのっている紅葉型のものはざっくりした食感のイカの表面にウニをのって焼いたもの。
 黄色い陶器の器の中には自家製のカラスミが厚切りで。これにコリコリしたクワイのチップスが添えてあります。
 それと大ぶりの銀杏は見たことない大きさ。
 
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 お造りは2皿。一皿目は左に明石の鯛、右に伊勢海老の刺身。厚切りでブリブリした食感が双方ともたまらない。鯛も見事ですが、その上にうろこをとった皮がのっていました。ゼラチン質の塊のような皮際が魅惑的な口当たりです。
 盛り付けてあるのは山葵に細工された大根とにんじん、それに水前寺海苔。
 刺身のつまも手抜かりなく極細の切り方。同じ細さの茗荷がまぜこまれていて爽やかな口当たりです。
 
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 2皿目のお造りはこしびという鮪の稚魚。筋目のない見事な鮪の身はとろけるように美味しい。
 上にはマスタードがのっています。
 これにつけていただくのはこのお店のスペシャリテである黄身醤油。出汁を加えた醤油に卵の黄身を3日間漬け込んで作るのだそうです。卵の黄身の持つ濃厚な旨味を絡めていただくのですからすごいものです。
 
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 ここで松茸の土瓶蒸しです。中の具は鱧と松茸。まずはお猪口にスープを注ぎ飲む。実に美味い。和風出汁に松茸の香りがすごい。
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 さらに添えてある酢橘をひと垂らし絞って飲むと、爽やかな風味が加わって何倍にも美味しく感じました。この美味しいスープを娘が大変気に入ったようです。半分は飲まれてしまいました。
 もちろん、たっぷり目に入っている松茸と鱧の具も後から美味しくいただく。量が多いなぁとこのとき思う。
 
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 カマスの杉木焼きです。松葉の上に盛り付けられ、辺縁が燃えた杉の木の薄い板が秋らしさを驚きとともに演出してくれています。
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 カマスは幽庵焼きで椎茸を添えています。やわらかく味のしみこんだカマスはただでさえ美味しいが、ほんわりと漂う杉の木のスモーキーな香りに絞られた酢橘も爽やか。
 
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 炭を使った網焼きの焼き松茸が登場。運ばれてきたときから松茸の良い香りが。
 焼き方はすでに焼いてある状態なので、すぐに食べられます。
 手前左にはポン酢、右は酢橘と塩です。
 この松茸も娘は食べていました
 ただ、酢橘が続くのはちょっとどうかなと思う。美味しいけど。新しい食べ方ってないのかな?
 
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 ここでしめ鯖。半透明のガラスの皿にのせられた紅玉を器に。
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 横に添えられているのは木の蓋をした長細いお猪口。この中には海老味噌と海老の殻でとった濃厚なスープ。うわ、美味い!! 和食の店であることを忘れてしまいました。これも半分娘に飲まれてしまいました。
 
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 全体的に量が多目でもうおなかが膨れたところで、ドンときたのは京野菜の炊き合わせ。
 焼いたアナゴの身ににんじんや蕪など。上に刻んだ柚子の皮が添えてあります。食べ切れませんでした。
 
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 土鍋に持ってきてくれた食事はいくらご飯です。

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 混ぜ合わせて茶碗に盛られたときにはいくらをつぶしてその中身をご飯に混ぜ込んだようで、米粒が赤く染まっています。上にのっているいくらは数を減らしていますけど。米は一粒一粒がつぶれていない最高の炊き上がり。これはすごい。海苔と三つ葉も入っていました。

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 食べきれない分は持ち帰ることが可能で折り詰めにしていただく。
 お汁は野菜のすり流し。
 香の物は3種盛り合わせで、ここにいたるまで隙のない味わい。
 
 デザートは2種類からの選択でした。
蕎麦粉と胡桃のカステラ キャラメルアイス
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 ビターな味わいのキャラメルのアイスに蕎麦の実を乗せて。舌には胡桃と蕎麦粉入りのブラウンのカステラです。
代白柿 柚子ソルベ
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 完熟した甘みを持つゼリーのように透き通った柿。奈良県は西吉野特産の江戸柿という渋柿を京都独特の方法で渋抜きした柿で、京都の料亭ご用達の品。まるでゼリーのように透き通り、とても甘い。柿はタンニンが黒く固まって色がつく…と先日テレビで見ましたが、これに染みはまったくない。
 一緒に柚子入りのシャーベットです。上にブランデーのジュレみたいのがかけられていたと思います。
 
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 最後にお抹茶をいただく。プラスアルファがかかったと思います。
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 一緒に出されたのは蕎麦の実の煎餅。
 
 ところで、娘のための食事も用意していただいております。
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 玉子焼き、鮭の焼き物、ふんわりと柔らかな具の入ったお澄ましにご飯です。
 玉子焼きは甘くもしょっぱくもなく玉子本来の味わい。お澄ましは塩分がかなり薄め。
 子供ということで、薄味に作られているようです。大人のものをもらってばかりいるうちの娘は余り気にいらなかったらしく、食べないなぁ。その代わりに大人の食べているものをガンガン食べる。もともと鮪好きなのでこしびは食べるし、土瓶蒸しはガンガン飲むし、海老のスープもぼくの分半分飲んじゃうし、焼いた松茸も食べていました。恐るべき2歳児です。
 アイスも出していただきました。ぼくらのと同じキャラメルのアイスです。
  
 トイレは上がり口の左に。
 木の床の和室的トイレでありながら、タンクなしの便器など最新式のものを上手く取り入れていました。さすがは一流店。
 
 総評は☆☆彡(二つ星半)です。
 とても素晴らしい。

 ところで、掘りごたつの足元にもち米のようなものがへばりついていたようで、靴下にペッタンペッタンとつく。お手拭でしっかり拭うと取れるので問題なかったのですが、途中で仲居さんにお願いしてきれいにしていただくということがありました。靴下を洗濯するとまで言ってくださったのですがご辞退申し上げる。トラブル時の対応はしっかりしたもので安心できました。
 また、ミシュランに載る大型店だからでしょうが、慣れていない仲居さんもいらっしゃいました。それほど気になるようなことはないのですが、教えている光景も少し見受けられます。これを見て大学病院を思い出しました。なるほど、こういうお店がよい接客の人材も育てるのだなぁと考えさせられました。そう思うと少々の至らないところなど、気にならなくなりませんか?

 最後にはきっちり料理人のお見送りもしうていただく。このあたり京都の料亭はしっかりしていて感心させられます。

 

菊乃井 赤坂店 (菊の井) (懐石料理 / 赤坂)
★★★★★ 4.5